父の回復作戦

 やっぱりどこかボケているうちの爺さん。

 まあ、だから要介護2なんだけど。



 毎朝「今日は何曜日ら?」と、家族全員に確認する。



 水曜と土曜はディサービスなので、そのための支度を忘れていると困るからと思って聞くようだ。一人だけに聞いても納得できないようで、家族全員に聞かなけば満足しない。





 ご飯はこちらで盛れば自分で食べるので助かる。

 自分でもご飯くらいは盛れるのだが、炊飯器のフタを閉め忘れたりするので、こちらでやることにしている。



 ときどき気をきかせて残したおかずにラップをかけようとするのだが、そのときラップの箱から筒状の本体を全部出してしまい、マゴマゴしているうちにラップの端っこがラップ本体にぜんぶくっついて残念な結果となる。



 使うぶんだけひっぱり出して、それをピッと切る技は忘れてしまったようだ。



 あと、棚から魚の缶詰を見つけて勝手に開けているのはいいのだが、それを捨てる場所は、何回言ってもプラスチックゴミの中に入れている。



 「そこ、ちがうから」とすでに3万回くらい言っていると思うのだが、いまだに学習できない。



 ま、それらはいいのだ。しょうがない。



 困るのは、あまりのマイペースな行動。

 時間の感覚があんまりないのか、外が明るくなると動き出す。



 そして、階下から「オトさんっ!」とわたしを呼ぶ。呼ぶというより叫ぶに近いか。



 わたしが部屋から出て顔が見えるまで叫んでいる。



 そして、わたしの顔を見ると「ションベ(小便)!」と言う

 もちろんわたしのことをションベと言ってるわけじゃない。



 ようするに、カテーテルで繋がれ外の袋に入っている小便袋の中身を捨ててくれという意味である・・・が、その時間が朝の4時10分である。



 外で小鳥がやっと目覚めてちゅんちゅんと鳴きはじめる時間だ。

 小鳥の声で起されるのは清々しいが、爺さまの「ションベ!」で起されるのはちょっとドンヨリ。



 いまはたまたま消防団の朝練のために起きているけれど、基本的には寝ている時間だ。



 「爺ちゃん、こんな時間はみんな寝ているんだよ」と言ったら、少しはわかってくれたようだ・・・が、わたしが朝ご飯を食べている時間帯に「オトさんっ!」とやってきて「ションベ!」というから困ってしまう。だから、暗いうちはダメ、ご飯中もダメということにしている。魚の缶詰とちがい、これはわりとわかってくれるから助かる。



 ションベは朝だけではない。一日に三回、なんだかションベな気分だなーと感じるとわたしを呼ぶ。じつは頼りにされる息子なのだ。



 集中して文章を書いているようなとき、階下からの父の声で一気に思考が乱れるから困る。



 また、なにかの作業で手を離せないときもあって、「ちょっと待って!」と大きな声で返事をするのだが、爺さまは耳が遠いのでわたしの声が聞こえない。





 何度も階下からわたしを呼ぶ。わたしが顔を出すまで、呼び続ける。



 「オトさんっ!」「ションベ!」 「オトさんっ!」「ションベ!」と。



 連呼されると困ってしまう。



 かなり大きな声なので、外にも聞こえているはずだ。

 世間の皆様が、どう思っているのだろうと心配になる。虐待と思われたらどうしましょって。



 そんなとき、不機嫌な声を出したり怒ったりするわたしだ。



 しかし、それが理不尽な怒りであることはわかっている。父は好きこのんでそんな状態になっているのではない・・・なーんて納得できるほど聖人じゃないのだ、わたしは。





母の状態が落ちついてきたので、そろそろ父の回復作戦に移行しようと思う。






uni-nin's Ownd フジタイチオのライトエッセイ

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