名作劇場「完全実話・特殊な運動」18禁ビロートーク
特殊な運動
わたしがふだん行くお医者さんは、わたしよりも少しばかり年下の女性のいる病院である。
先代の院長先生のころからそこに通っている。院長先生が亡くなって、その娘さんが跡を継いでいる病院なのだ。
威張らず気どらず、そしてお笑いのノリのけっこういい、愛らしい人である。
もうずいぶん前のことであるが、その女医さんからわたしの心臓の挙動にちょっと疑いがありということで、検査のために24時間の心電計をつけてもらったことがある。
「はーい、つけ終わりましたよ」
「ありがとうございまーす」
「一つ心しておいてくださいね」
「はい、なんでしょう」
「この装置をつけたまま『特殊な運動』をすると、心電図に乱れが出るかもしれませんからね」
「・・・特殊な運動?」
と、少し考えて「ああなるほど」と納得した。
当時わたしは、キックボクシングを習っていて、毎日サンドバッグを蹴っていた。
つまり、そういう普通の人はしないような運動、つまりそんな「特殊な運動」をすると心電計の数値に乱れが出るということだろうと納得し「はい、わかりました」と元気に返事をした。
しかし先生の意味した「特種な運動」というものは、もっとアダルトなものを意味していた。つまり男女のムフフな行為。ウブな先生はそれをストレートに言えなくて「特殊な運動」と言葉を濁していたのであった。
その翌日、女医さんとナースさんがわたしの胸についている心電計を外しながら
「特殊な運動はしなかったでしょうね?」と聞いた。
わたしは前日もキックの練習をしていたので、元気に「しました!」と答えた。
そしたら、二人の手がピタッと止まった。
「し、しましたって言いましたか?」
「ええ」
「したの、あなた? 特殊な運動、したの?」と、目を大きく開いて聞く先生。
「しましたよ」と天真爛漫に答えるわたし。
亀田駅前にある格闘技のジムにいって、しっかりとトレーニングしてきましたもの。通常をはるかに越えた特殊な運動。
「こんな機械を体につけて、特殊な運動、したの、あなた?」と、さらに先生とナースさんは聞く。
再び正直に
「はい、しました! 胸に機械をくっつけたままで、ホントにやりにくくて困りました。それでも日課ですから」とお答えした。
じっさい、こんなのつけてサンドバッグを蹴るのは至難の業であった。
「に、日課なの、アナタ、特殊な運動?」
「はい、日課です」
「で、したのは、いつ、何時ごろ?」と先生がお聞きになるので
「ええと、お昼すぎて着替えて、1時20分ごろですね」とお答えした。
「特殊な運動を、あ、あなた、真っ昼間からしちゃうの?」と、機械の中からデータをずるずるとひっぱり出して、先生ったら、なにか焦ってる感じだった。
「ええ、わたしはいつも昼間ですよ」
「うわっ、あった。ほんとだ。1時19分からすごいわすごいわ、すごい脈拍だわ」と、先生もナースさんもデータを見て驚いている。だから、ついついわたしも得意になって、
「いや、いつもはもっと激しいんですよ。今回はこんな機械がついていたから5ラウンドでやめちゃいましたけど」と言ってしまった。
「5ラウンドって、あなた真っ昼間に5回もなんて、それってちょっといかがなものかと思うんだけど、だいじょうぶなの?」と、わけのわからんことを言いつつも、「5」という数字をしっかりとカルテに書いている先生であった。
「5回もしたら、かなりの時間でしょ?」と先生が訊くので
「いや、まあ1回3分ですから時間的にはそれほどでもないですね」と答えたら
「え! 1回が3分なの、あなた? いつもそうなの?」と驚いたような声で聞かれたので
「いえいえいえ、アマチュアの本番は2分ですね」と言ったら
「ええええ? ふだんは本番じゃなくて3分で、アマチュア相手で2分って、ああ、わたしよくわからない」
とかなんとか言いながら、1回3分。アマチュアは2分と、これまたしっかりカルテに書いた先生であった。
そのデータをもとに専門の病院への紹介状を作ってもらい、早期に治療を受けることができた。
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