「そりてて」 忘れられてしまわれそうエッセイシリーズ 


「そりてて」


 


 息子が小学校一年生のときのこと・・・



 


 その日のわたしは、締切りまぎわの原稿ができあがらずイライラしていた。

 


 そんなときに階下から息子の泣き声がしはじめ、それがだんだんと大きくなってきたからイラつきが増幅し、ついにはドタドタと階段をおりていった。


 


 そこには、泣いてる息子と困った顔でなだめている妻がいた。


 「なにを泣いている!」と大声で聞いたら、息子はわたしの声に驚き、さらに大きな声で泣いた。


 


 「おとうさんがー・・・・・・」と言っているのだが、泣きながらなのでよく聞きとれない。

 


 それでますますイラついて「うるさいっ! これ以上泣いたら蔵に入れてネズミの餌にするぞっ!」と怒鳴った。


 


 息子はわたしの言葉に怯えて、泣くのをやめた。


 


 静かになったところで、「どうして泣くのだ?」と、声を荒げて聞いた。


 息子は泣き声にならぬように、唇を震わせ息を途切れ途切れに吐きだして言った。


 


 「・・・あのね、ボクね、おとうさんにね、お誕生日のプレゼントをあげようと思ったの」


 


 と、指さす先にはお菓子の箱を切り抜いて画用紙を貼った四角い物体がある。

 


 そこには「ごみばこ」「まいこんぴゅーた」と書かれていて、真ん中にはトランプの絵と「そりてて」の文字・・・。


 


 「ボクね、『そりてぃあ』と書こうと思っていたのに、まちがって『そりてて』にしてしまったの。だから、おとうさんにあげられなくなっちゃったの」と、そこまで言うと、息子はまた泣きだした。


 


 彼はわたしを喜ばせようと、こっそりプレゼントを作っていたのだ。


 当時、息子とわたしはひまさえあればトランプゲームのソリティアで遊んでいた。


 


 「ねえ、いますごく後悔してるでしょう?」と妻が耳もとでささやいた。



 わたしは声を出さずに肯いた。

 そして、泣いている息子を抱いて二階の仕事場に戻った。


 


 息子をひざにのせ、パソコン画面の「ソリティア」を「そりてて」と名前をかえ「ほら、お父さんのパソコンは『そりてて』になったぞ。もう泣くな。プレゼントありがとう」と、頭をなでた。



 「ごめんな」

 


 息子は泣きやみ、そして抱かれたままわたしのホホを指でつついて「うん」と言った。


 






uni-nin's Ownd フジタイチオのライトエッセイ

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