大金持ちの子とそうでないとこの子

 昔、古町のデパートの最上階に大きな食堂があった。 

 幼いころ、年に何度か親に連れていってもらった。



 そこで食べるのは、いつもラーメンだった。いわゆるシンプルな中華そば。ナルトとメンマとホウレン草とチャーシューが一枚。麺は細めの縮れ麺。美味しかったなあ。



 なお、ラーメンはわたしが希望したわけではなく、親が決めるのだ。

 幼すぎるわたしには、メニュー決定権はなかった。だいいち、ほかの食べものの名前がわからなかったし。



 親が「ラーメン」と決める理由は、それがいちばん安いからだった。

 安かったかもしれないが、とってもおいしかった。

 ちょっと奮発したときは「カレーライス」。これもおいしかった。そのころ家で食べるカレーは、カレーになりきっていない小麦粉料理でしかなかった。





 ロウでできた食品サンプルには、見たこともない食べものがいっぱいあった。



 しかし、わたしはこの二種類しか食べたことがなかった。



 カツ丼などという食べものの存在を知ったのは小学校高学年くらい、いや、ヘタしたら中学生になってからだったかもしれない。





 そうそう、近くのテーブルで「お子様ランチ」というのを食べている子どもがいた。



 オムライスらしきものに国旗が立っていたような、プリンのようなものがついていたような・・・とにかくわたしがこれまでに食べたことがないもので構成されていた。そして、そのプレートの横にはショートケーキらしきものも一皿と、オレンジジュースと思われる飲みものも。





 あの子の親はきっと大金持ちなんだなと思いながら、わたしはラーメンを食べていた。



 そして、とうとうお子様ランチを知らないまま、わたしは大人になってしまったのだ。



 そんな話を結婚前にツレのオンナにしたことがあった。

 「あのころは、みんながビンボウだったよなあ」なんて話をしみじみと。



 そしたら東京生まれで4歳ちがいの彼女は「え? わたし、物心ついたときにはお子様ランチを食べてましたけどぉ♪」なんてことを言う。「ケーキだって、父が会社の帰りに毎日のように買ってきてくれてましたしぃ♪」なんてことも。



 近所のケーキ屋さんのケーキ、完全制覇しちゃっていたとか。



 ああ、妻も大金持ちの娘であった。






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