疑惑の最強伝説
忘れられてしまいそう第三弾
「疑惑の最強伝説」
それはまだ娘がわたしのことを、地上最強のオトコと信じていたころのことです。
その娘をヒザにのせ、縁側で春のやわらかな陽射しを浴びながら絵本を読んでいました。すると・・・「ぶひっ!」という奇妙な音がブロック塀の向こうから聞こえてきたので「なんだなんだ」といってみると、そこにはなんと牛と見まごうばかりの巨大な豚がいたのでした。そしてその豚が、築四十年のわが家のブロック塀をブヒブヒ言いながら食べているではありませんか。にわかには信じがたい光景でしたが、現実に目の前で起っている出来事でした。
娘は「お父さん、こわいよ」と泣きベソで、わたしに豚をやっつけてと言うのです。
さて困りました。たしかにわたしは新潟県テコンドー協会の会長ですから、人との戦い方については研究することもございます。しかし、豚と戦う方法については、それまでなにひとつ考えたことがございません。
しかしマゴマゴしていてはわが家のブロック塀が豚に食べつくされてしまいます。覚悟を決めたわたしは、娘を安全な場所に避難させ、豚と対決することにいたしました。
まずは豚の後ろにそっと回りこみ「こら、ブタ、やめろ」と平和的に呼びかけてみました。しかしブタは振り向きもしません。その態度にちょっとムカつき、「やめろと言ってるだろっ!」と背中を手のひらでパシッと叩いてみました。それでも、やはり無反応。すっかり頭にきたわたしは「もう許さないからな」と両手でシッポをつかみ、思いっきり引っ張ってみました。
するとブタは「ブヒッ」と鳴いてあとずさりをはじめました。「おっ、これでいけるかもしれない」という喜びも束の間、わたしは左足の甲に激しい痛みを覚えました。なんと豚に足を踏まれてしまったのです。いやもうその痛いこと痛いこと。一瞬でわたしは負けました。その苦痛に耐えかねジタバタとしていましたら、わたしの横にトラックが止まり、「いたいた」と言いながら初老の男性が二人降りてきました。そして、慣れた手つきで豚をトラックの荷台に誘導し、笑顔で「どーもどーも」と風のように去っていきました。
その日、「痛いよう」と言いながら足の甲に湿布を貼るわたしを見て「お父さんって、地上最強のオトコじゃないみたい」と、疑いはじめたという娘です。
****************
0コメント