げい

わ:シリーズ
「愛犬ハチの芸」
 
 わが家の愛犬ハチは、今年14歳。犬としてはかなり高齢の部類です。


 「犬、あげます」の貼り紙を見て、当時小学生だった娘がもらってきた真っ黒な毛の長い雑種のメスです。


 うちにきたその日に縁側の横に犬小屋を置き、ハチは縁側と犬小屋をいったりきたりする半室内犬としてわが家の一員になりました。


 あのころは、子どもたちもハチも、同じようにかわいくて無邪気でした。わたしが外から帰ってくると「オトーさん、オトーさん♪」と歌うようにまとわりついてきたものです。


 それがいまでは「ただいま」と家に帰っても、子どもたちはまるで静か。ハチだけがあのころと同じようにシッポをパタパタ振って喜んでくれます。


 この地球上で、わたしの帰宅をここまで喜んでくれる生物は、もはやハチしかいないかもしれません。


 「いい子だねー」となでてあげると、ハチはとてもうれしそうです。「ほんとうにおとうさんのことが好きなんだねえ、ハチは」と話しかけると、さらにシッポの振れが速くなります。


 親バカ発言で恐縮ですが、ハチはかわいいだけでなく、すごく頭もいいのです。


 「オスワリ」といえば、オスワリするし、「お手」といえば、お手をします。もちろんこれはとくべつなことではありません。たいていの犬にもできることです。


 ハチのすごいところは、わたしが「オスワリ」と言う前に、オスワリをするということです。わたしが言わんとしていることを察知して、わたしの姿を見ると座るのです。


 そして、わたしを見つめながらシッポをパタパタ振っている姿のいじらしいこと。それを見てじっとしてなどいられません。わたしは大急ぎでハチのところにいって「いいこいいこ」と頭をなでてあげるのです。


 するとこんどはハチの右前足がひょいと前に出てきます。

 そうです。賢いハチはわたしが「お手」という前に、自発的に「お手」をするのです。


 そこでわたしは「おお、そうかそうか」と急いでハチの右前足の下に左手を添えて「いい子いい子と」背中をなでます。


 と、ここまで書いて思ったのですが、なんだかどうも、わたしのほうがハチに芸を仕込まれているような気がしてなりません。
 
 
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 気のせいですね・・・

uni-nin's Ownd フジタイチオのライトエッセイ

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