たいせつなもの

 約束の時間までにちょっと間があったので、景色のいい最上階のラウンジで本を読んでいた。



 そこで、聞くともなしに聞こえてきた声。

 「健康が一番とわかりました」と言う、しみじとした声。



 さりげなく顔をあげてみて、その声の主を見た。

パジャマを着た男性の姿。話の相手は同年代の若いご夫婦。彼のお見舞いにきたのだろう。





 若いころのわたしは、あんまり体のことは考えてはいなかった。

病気になってもいいから、仕事をうまくこなしたかった。



 病気は、そのあとから治せばいいと思っていた。

治らないなら、そのときはそのときと軽く考えていた。



 たいせつなものは仕事・・・いや、じつはわたしの場合は仕事ではなく、上司とか査定とか見栄とか世間体とか、そのようなところばかりを気にしていたと思う。



 命を失いそうになってから気づいたのは、これまで大事にしてきたものは、人生の中ではそれほど大切じゃなさそうだってことだ。



 たいせつなことに気づくことができたから、わたしは病気になってよかった。・・・と思えたのは、治ったからこそ。また病気になりたいなんて思わない。



 早く元気になりますようにと、祈るように、願うように、あなたへ向けて。




uni-nin's Ownd フジタイチオのライトエッセイ

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