藤田市男成分

 いつかも紹介したけれど、伯父、元祖藤田市男の話をもう一度書く。



 伯父は二十代で戦死した。



 結婚して幼い娘さんがいたが、病死した。

 奥さんはその後、説得され、再婚した。



 仏壇の間に飾ってある写真は、陸軍の軍服姿だ。

 色白で端整な顔立ちをしている。



 勉強ができて、そして軍隊では厳しい人だったそうだ。

 それは、ずいぶん前に死んだ親戚の爺ちゃんが教えてくれたこと。



 わたしの父が、まだ子どもだった頃に藤田市男伯父は死んだ。



 前日の戦闘で、大きな怪我を負っていた。

 おまえは行くなと言われたけれど、それでも出撃して死んだ。

 それは、その戦友という人が仏壇の前で泣きながら、幼いわたしに教えてくれたこと。



 その人が、髪の毛と指の骨を持ってきてくれたと聞いている。



 子どものころから、その遺影を見ていた。

 優しそうな顔しているけど、おっかないのかなと思って見ていた。

 そうだな、命懸けの軍隊だもの、命懸けの号令をかけていたんだろな。



 藤田市男成分、二人で使っちゃったけど、あとどのくらい残っているんだろう。



 藤田市男伯父、あなたはいちばんキレイなときに死んだ。

 いつまでも、若いお顔でこちらを見ている。



 わたしはあなたの死後に生まれ、あなたの倍以上も生きた。

 あなたが死んでくれたおかげかもしれないです。



 いまわたしがここにいるという、運命の不思議を感じる。




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