みんなに可愛がられ

 あずきはきっと幸せだ。

 みんながあずきに話しかける。





 あずき、元気だった?



 あずき、いい子だね。 



 あずき、ひっくり返っているの?



 あずき、かわいいねー。



 悪意のないイタズラはよくやっているけど、まあ、それはしょうがない。



 ほんとに悪気はないんだから。



 その多くはこちらの不注意からだし。

 叱って躾なければイケナイほどのことじゃない。





 そうそう。

 躾といえば、あずきは「お手」ができない。



 「お手」を教えようとしてあずきの前足に触ると、遊んでくれているのだと思ってはしゃぎだす。何回やっても、そう。



 だからもう、お手を教えるのは諦めた。考えてみれば、お手ができたからといって、なにかいいことがあるわけでもないし。



 そのかわり「オスワリ」と「待て」は覚えた。

 うん、こっちのほうがだいじだ。



 去年の暮れ、16年いっしょに暮らしたハチが死んだとき、もうこんな悲しみは耐えられないからと思ったけれど、また懲りずに犬と暮らす。



 いつかまたあの悲しみがやってくるわけだけど、それを知っているからこそ、いまこのときのあずきが愛おしい。




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