「雪の匂い」忘れられてしまいそうなエッセイシリーズ


 久しぶりの休日。




 今日は七時に目が覚めた。

 最近、四時半起きが続いていたから、なんだかたっぷり眠った気分になる。



 会社勤めもせずに暮らしているもので、ほかの人からみればいつも休日みたいなのかもしれないが、それでもたまには忙しい。


 


 外は雨。わたしは雨の音が好きなのだ。大地を打つ雨音は心を平にしてくれる。雨の日は、その音を聴くためにわざと窓を開けるのだ。変っているよねと、妻は笑って言うけれど。


 


 娘は日照りの続いた後に降る雨が好きだという。乾いた大地が水を吸う匂いがいいという。そうだな、それもわるくない。


 


 「じゃあ、雪の匂いはどうだ?」と聞いたら「雪に匂いなんてあるの?」と聞き返された。あらまあ。


 


 そうか、娘はまだ雪の匂いを感じたことがなかったのか。

 初雪の日に、家じゅうに満ちる雪の匂いを知らなかったのだな。




 「なーんだ。オマエはまだまだ子どもなんだねえ」といったら、「いいもーん、あたしは子どもだもーん」と口を尖らせた。

 


 「ボクねーボクねー、雪の匂い知ってるよ」と、息子が話に割りこんできた。


 「とっても甘い匂いだよ」と得意になっていたが、こいつは、朝の玉子焼きの匂いとまちがっているようだ。


 


 娘にもなんとか雪の匂いを教えてあげたいのだが、その匂いをわたしは言葉にかえて伝える力がない。



 初雪に日に「これだよ」といってあげるしかないのだ。それは、鼻腔で感じるだけでなく、全身を使って知らなければならないのだから。


 


 わたしが子どもに残せるものはあまりないかもしれないけれど、雪の匂いをプレゼントできたらいいと思う。






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